大学生の時に引っ掛かった言葉

大学生の時に引っ掛かった言葉を当時書き留めていたようで、それが出てきた。確かに覚えている。何に使うつもりでもなくスクラップしたらしい。小説や戯曲を切り取ることができずにただレポート用紙に書き留めていた。

アリストテレスがなんと言おうと、哲学が束になってかかってこようと、煙草にまさるものはあるまい。紳士がたが夢中になるのもこいつだし、煙草なしに暮らす輩なんか、生きる甲斐もないくらいさ。煙草の徳は人間の脳みそを楽しませ、綺麗にするばかりじゃない。品性高潔となり、紳士の道を覚えるのもこいつを喫るおかげなんだ。な、そうだろう、一服つければどなたさまにもお愛想はよくなるし、どこへ顔出ししても、喜んで右左にお愛想が振りまきたくなるじゃないか? 他人さまから催促されるまでもなく、して欲しいことはさっさとしてやれる。まったくさ、煙草をのめばこそ、みんな名誉心もでき、品性も高まるというもんだ。(「ドン・ジュアン」モリエール作、冒頭:スガナレルの科白)

うんうん。覚えてる。

おもしろい作り話の中に政治をもちこむのは、音楽会の最中にピストルをぶっぱなすようなものです。耳をつんざくような音だが、印象は強くない。どの楽器の音とも調和しないわけです。政治の話など持ち出したら、読者の半分はかんかんになって怒るだろうし、残りの半分は退屈するに決まってます。その読者だって、朝の新聞でなら、政治の話もまたいちだんとおもしろいし、印象深くも思うでしょうが…。(「赤と黒(下)」p.238)

これも好きだったなぁ。

万物の基本原理は、自分を保存することであり、生きることである。毒にんじんの種をまいて、麦の穂が実るとでも思ってるのか?!(「赤と黒(下)」p.248 マキャベリ)

赤と黒は、言葉の紬ぎ方が、なんだろう、文学というより音楽的な肌触りと理屈の両面から攻めてくる迫力があって、ファウストよりもクソ重い印象。

貴族的な落ち着きの完全に近いお手本だと思った。どこまでも礼儀作法にかなっているばかりでなく、そのうえ、決して激しい感動などにはとらわれないといったところが、はっきりうかがわれる。

そして、大好きなのはこれだ。
さあ飲もう、友よいざ、
過ぎゆくときに誘われて、
命ある間を楽しもう、
力の限り楽しもう。
三途の川を渡ったら、
酒とも恋ともさようなら。
急いで飲もう、友よいざ、
いつまで飲めるものじゃなし。
馬鹿な奴らはほっておけ、
勝手に議論をさせておけ。
我らは自分の幸せを
お酒の壜に詰めておく。
お金や智慧や栄光で
浮き世の悩みは消えぬはず。
上手にお酒を飲んでこそ
仕合せになれるというものさ。
(三人合唱)
さあさあ、ついだ、酒をつげ、
もう飲めないと云うまでは、
つげつげ、酒を、いつまでも!
(「町人貴族」モリエールp.93)

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こうやって書き写すことで、ようやく当時のレポート用紙とかネタ帳を捨てられるってことですな。やれやれ-。

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